更新日 | 2021年7月6日 |
---|
新型コロナウイルス感染症は全世界で拡大を続けており、これに伴い、国内外で未曾有の影響が生じています。
新型コロナウイルス感染症をめぐる法的問題は多岐にわたりますが、当事務所では、依頼者の皆様に新型コロナウイルス感染症対策の一助としてご活用いただくべく、各種の法的論点につきQ&A形式で解説を掲載してまいります。
なお、Q&Aは今後も随時追加・更新予定です。
当事務所では、最新の情報を収集し、依頼者に迅速かつ多角的なアドバイスを提供しております。とりわけ、直近では欧米、アジア諸国をはじめとする海外の動向も注視する必要があるところ、当事務所の各国オフィス及び外部の海外法律事務所との緊密な連携により、地域横断的な法的検討も対応しております。
A.契約上、「債務の不履行の場合、その原因の如何にかかわらず損害賠償責任を負う」という定めがある場合、「不可抗力」を理由として、損害賠償責任を免れることができる可能性は低いと思われます。
一方、契約上明確な定めがない場合、一般的に「不可抗力」は免責事由と解されており、その旨を認めた裁判例もあります。そして、「不可抗力」に該当するかは、債務不履行の原因となった事由が「外部から生じた原因であり、かつ防止のために相当の注意をしても防止できない」ものか否かが考慮されます。
また、学説においても、債務不履行責任の文脈において、債務不履行の原因となった事由が、
- ①債務者の統制外の障害であること
- ②契約締結時に考慮に入れることができなかった障害であること
- ③回避困難かつ克服困難な障害であること
新型コロナウイルス感染症を原因とする債務不履行が、「不可抗力」によると認定されるか否かは、個々のケースによる個別判断によらざるを得ませんが、新型コロナウイルス感染症の影響により債務を履行できなかった場合に、この問題が「不可抗力」に該当し、債務不履行責任を負わない場合もあり得ると考えられます。
なお、債務不履行による損害賠償責任(民法415条)の有無が争われるケースでは、債務不履行による損害賠償責任の発生要件が、
- ①債務不履行の事実
- ②債務者の故意又は過失(帰責事由)
- ③損害の発生
- ④損害と債務不履行との因果関係
A.契約上「顧客は債務の履行を受けることができなかったときは、その原因にかかわらず契約を解約できる」等の規定がある場合は、不可抗力により債務を履行することができなかったことを主張しても、顧客は契約を解約できます。
一方、契約上明確な文言がない場合ですが、民法上の一般論として、債務不履行に基づく解除権の行使については、債務者の帰責事由がなければ認められません。したがって、個々のケースごとの個別判断にはなりますが、上述Q1で述べた基準に沿って新型コロナウイルス感染症の影響は「不可抗力」(その結果、自らに帰責事由はない)と主張することで顧客による契約の解除が認められない可能性があります。
なお、令和2年4月1日に改正民法が施行され、同日以降に締結された契約については、民法上、債務者の帰責事由がなくとも、債権者は債務不履行に基づく解除権の行使ができるようになりました。したがって、同日以降に締結された契約については契約上明確な文言がない場合であっても、顧客からの解約が認められることになります。
A.契約上「顧客は債務の履行を受けることができなかったときは、その原因にかかわらず顧客は代金支払義務を免れる」旨の規定がある場合は、「不可抗力」により債務を履行することができなかったことを主張しても、顧客に代金支払いを求めることはできない可能性が高いと考えられます。
契約上明確な文言がない場合ですが、「履行できなかった」の意味が、客観的に履行できない状況、つまり履行不能を意味する場合と、客観的に履行可能であるものの、単に履行が遅滞に陥っているに過ぎない場合とで場合分けをする必要があります。
履行不能である場合、民法上、「特定物」にかかる物権の設定または移転を目的とする契約以外の場合には、代金支払いを顧客に求めることができないのが原則です(旧民法536条1項)。ただし、債務を履行できなかったことにつき、債権者に帰責事由がある場合、例えば、顧客が本来履行を受領すべき時期に受領せず、その後、新型コロナウイルス感染症の影響により履行ができなくなったような場合には、顧客に対して代金支払いを引き続き求めることができます(同条2項)。他方、契約の内容が「特定物」にかかる物権の設定または移転を目的とする場合には、債務者に帰責事由が存しない限り、代金支払いを顧客に対し求めることができます(旧民法534条1項)。
履行が可能である場合には、危険負担の問題ではないため、債務者は、自らの債務の履行をするまでは、代金の支払いを求めることはできません(同時履行の抗弁権、旧民法533条)。
なお、令和2年4月1日に改正民法が施行され、同日以降に契約が締結された場合には、契約の内容が「特定物」にかかる物権の設定または移転を目的とするか否かにかかわらず、代金支払いを顧客に求めることができないのが原則です(新民法536条1項)。また、債務を履行できなかったことにつき、債権者に帰責事由がある場合には、顧客に対して代金支払いを引き続き求めることができます(同条2項)。
Q1.~Q3.担当 齋藤宏一弁護士、古波藏惇弁護士
↑ PAGE TOP
A.株式譲渡契約を含む M&A 取引契約おいて、契約締結とクロージングの間に一定の期間を設ける場合には、対象会社の事業、財務状態、資産、負債、損益、将来の収益等に「重大な悪影響を及ぼす事由」が生じていないことを買主のクロージング義務履行の前提条件とすることがあります(いわゆる MAC 条項又は MAE 条項)。MAC条項がクロージング義務履行の前提条件として規定されている場合には、対象会社の事業等に「重大な悪影響を及ぼす事由」が生じた場合には、買主は前提条件不充足としてクロージング義務を履行しないことができます。また、対象会社の最終の貸借対照表の基準日後に「重大な悪影響を及ぼす事由」が発生していないことが表明保証の内容とされている場合には、表明保証の違反を通じて、前提条件の不充足によりクロージング義務を履行しないこと又は契約の解除を行うことができる場合があります。
もっとも、売主からすれば、契約締結後に対象会社に生じるリスクを自らが負担することになりますので、「重大な悪影響を及ぼす事由」の定義は買主との間で大きな争点となります。一般的な経済状況の変動、業界全体の状況の変動、資本市場の変動、戦争・テロ・天災、法令・会計基準の変更等は、売主・対象会社側でコントロールできない事由として、「重大な悪影響を及ぼす事由」から除外されることも多いですが、本件のように、新型コロナウイルスの感染拡大による将来の見通しが不透明な状況においては、売主から、新型コロナウイルス感染拡大に関連して生じる事由を明示的に除外するよう主張されることも考えられます。
これに対して買主としては、新型コロナウイルス感染拡大に関連して生じる事由を明示的に除外するとしても、これに関連して生じる対象会社への悪影響が、同業他社に生じる悪影響と比較して特に大きくなった場合には、例外の例外として、「重大な悪影響を及ぼす事由」に該当するよう規定することを求めることが考えられます。
いかなる事由を「重大な悪影響を及ぼす事由」と定義するかは、売主・買主間のリスクアロケーションの問題であり、新型コロナウイルス感染拡大のリスクをどの程度甘受できるのかを検討し、両者が合意できる着地点を探す必要があります。
また、MAC条項を規定することについて合意できたとしても、いかなる場合に「重大な」悪影響が生じたといえるのかといった点や、現在のように新型コロナウイルスの感染が周知の事実となっている中で契約関係に入った場合に、新型コロナウイルスの感染拡大を契約に明記しなかったときは、これを理由として MAC 条項に該当する旨を主張できるのかといった点も問題となりえます。そのため、売上・利益や特定の KPI が一定程度減少したこと、特定の事象が発生したこと(例えば、海外工場の閉鎖が 2 週間以上継続したこと等)といった客観的な基準をもって「重大な悪影響を及ぼす事由」に当たる旨を定めておくことも考えられます。もっとも、契約締結前の限られた時間の中で両者が納得できるような基準を定めることが可能であるか、比較の対象となる数値をどのように算出するか、クロージング後の収益悪化が見込まれる事由が発生した場合をカバーできるような基準を定めることが可能であるか、といった点も併せて検討する必要があります。
なお、MAC 条項について満足できる内容を合意できない場合、買主としては、売主に対して解約金(リバース・ブレークアップフィー又はリバース・ターミネーションフィーと呼ばれます。)を支払うことにより契約を一方的に解除できる内容の規定を設け、クロージングを取りやめる途を確保しておくということも考えられます。
A.新型コロナウイルス感染症の影響で、ある一定の買収価格で合意することが難しい場合には、いわゆる「価格調整条項」や「アーンアウト条項」などを利用することが考えられます。
(価格調整条項について)
新型コロナウイルス感染症の感染の状況や、緊急事態宣言のような感染拡大防止措置の内容は、日々変化し又は更新され、現在は多くの企業の事業の状況が短期間であっても見通しにくいものとなっています。そのような中、契約締結からクロージングまでの期間の価格変動リスクに対応するためには、クロージングまでの対象会社の企業価値の変動を反映して価格調整を行う価格調整条項の利用が考えられます。
このような価格調整条項は、通常、契約締結前の段階で入手可能な最新の対象会社の貸借対照表(株式譲渡契約において合意されクロージング日に支払われる譲渡価格の決定もこのような貸借対照表に基づいて行われ
るものと考えられます。)と、クロージング日時点における対象会社の貸借対照表とを比較して、これらの貸借対照表における一定の項目の変動に基づき、譲渡価格の調整を行うという内容であることが多いです。具体的な調整の方法としては、運転資本の額の変動を基準にするもの(運転資本調整)、有利子負債と現金及び現金同等物の変動を基準にするもの(純負債調整)、純資産額の変動を基準にするもの(純資産調整)などがあり、またこれらを組み合わせたものもあります。調整の結果、変更された譲渡価格とクロージング日に支払われた譲渡価格の差額につき、一方の当事者から他方の当事者に支払われることになります。価格調整条項は、上記のとおり、通常はクロージング日時点における貸借対照表の数値を基準として価格調整を行うよう規定されることが一般的ですが、契約締結日とクロージング日との間の期間が長期に及ぶ場合には、クロージング後に支払われることになる調整額の変動の影響をできるだけ小さくするために、クロージング後の価格調整に加え、クロージング日前の一定のタイミングで暫定的な価格調整を行い、クロージング日に支払われる譲渡価格を調整するようなメカニズムを規定することも考えられます。
(アーンアウト条項について)
他方で、新型コロナウイルス感染症については、この先数か月といった短期的な影響のみならず、感染の拡大に伴う経済活動の自粛等によって引き起こされた景気の悪化等により、この先何年かに及ぶ長期的な影響も懸念されているところです。そのような、クロージング後一定の期間における価値の変動や、対象会社の事業の不確実性によるリスクに対応するためには、アーンアウト(earn-out)条項の利用が考えられます。
アーンアウト条項とは、買収対価の一部を買収後における予め合意された目標の達成に連動させる条項をいいます。すなわち、クロージング日に支払われる譲渡価格に加えて、目標が達成された場合に買主から売主に対して追加で譲渡価格の支払がなされることになります。そのような目標として設定されるものとしては、財務的な指標では EBITDA、売上高、純利益等が用いられることが多く、一定の事項の達成等の非財務的な指標が定められることもあります。支払いの方式については、一定の目標を達成した場合に一定の額を支払うこととするものや、支払額を一定の公式に従って計算するもの等があり、支払いの回数についても、評価対象期間全体で 1 回の支払のみが予定されているものや、評価対象期間の途中における目標達成状況に応じて都度支払いを行うもの等があります。
アーンアウト条項においては、売主側が追加の譲渡価格の支払を受けられないかもしれないというリスクを負うことになります。それとは逆に買主側がリスクを負う条項の設計としては、アーンアウト条項とは逆に、一定の条件が成就しないことを理由に、譲渡価格の一部の返還を受けるというリバース・アーンアウト(reverse earn-out)条項の利用も考えられます。なお、アーンアウト条項やリバース・アーンアウト条項による売主及び買主間の支払の確実性を担保するために、エスクロー口座に相当する現金を預け入れた上で、条件が満たされた場合には、エスクロー業者が売主及び買主間で合意された条件に従って、自動的に支払を行うようにすることも考えられます。
A.新型コロナウイルス感染症拡大に伴う勤務体制の変化や外出自粛により、デュー・デリジェンス(DD)の実施方法・態様に制約が生じています。
買主は、自ら、又は専門家に委託して各種のDDを実施しますが、現状では、DDに従事するメンバーが、物理的
なデータルームに参集して資料閲覧を行うことは困難です。そのため、バーチャル・データルームの活用が現実的な選択肢となるでしょう。資料の収集等を行う売主・対象会社においては、在宅勤務や外出自粛の影響により、会社で保管された資料を整理してデータルームにアップロードすることが困難である状況も考えられるため、買主としては、重要資料の確認のタイミングが遅れたり、DD のプロセスに時間を要したりする可能性に留意する必要があります。また、買主は、通常、資料の閲覧と並行して、売主・対象会社の担当者に対するインタビューを実施しますが、このようなインタビューも電話会議やオンライン会議の方式によらざるを得ないでしょう。このような場合、会議の参加者を点呼により確認したり、(可能であれば)会議をロックしたりするなどして、情報セキュリティに配慮したいところです。そして、対象会社の生産拠点等へのサイトビジットも、外出自粛や自主的な操業停止等の影響により実施が困難な状況も想定されます。さらに、買主・売主・対象会社を問わず、DD のプロセスに関与するメンバーが主として在宅勤務を行っている状況では、平時にもまして、各メンバーに対し、機密資料・データに係る情報管理の徹底を図る必要性が高いと言えるでしょう。
次に、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を踏まえた法務 DD の留意点ですが、これは対象会社の業種・業界、事業モデル、株式の上場・非上場の有無等により異なるため、一概にポイントを示すことは難しいところです。以下では、業種・業界を問わず、共通の視点となり得る事項について述べます。
まず、対象会社のサプライチェーンへの影響があります。例えば対象会社が製造業である場合、その取引先に納期遅延、仕入拒否その他の債務不履行が発生している可能性があります。ここでは、契約における不可抗力条項(「商取引関係 Q&A」参照)の該当性等の分析が問題となり得ます。また、代替的な仕入先・取引先の選択を困難とする独占権(exclusivity)条項がある契約や、対象会社が製品の最低単位購入義務を負っている契約等については、契約解除の可否等が問題となり得ます。逆に、対象会社において納期遅延その他の債務不履行が生じている場合には、取引先に対する損害賠償の問題が生じる可能性があるため、やはり不可抗力条項の該当性等の分析が問題となります。なお、買主として、対象会社の買収後に一部事業の譲渡や廃止などのリストラクチャリングを検討する場合には、その観点で各契約の解除可否等の精査を行うことになるでしょう。
次に、対象会社の資金繰りへの影響の分析の前提として、金融機関からの借入れの返済状況、借入契約における財務制限条項への抵触等の精査が必要となるでしょう。
さらに、人事・労務分野への影響があります。対象会社の従業員が在宅勤務(テレワーク)を導入している状況では、労働時間管理の方法を含め、対象会社が採用している制度の内容をまず理解する必要があると思われます。また、在宅勤務に関しては、各従業員が遵守すべき会社の機密資料やデータに関する情報セキュリティポリシーにも留意したいところです。また、対象会社の業績が悪化している状況では、対象会社が雇用削減や賃金カット等のいわゆるリストラを計画している可能性があり、解雇の有効性、労働条件の不利益変更の可否、有期契約労働者の雇止め等の様々な労働問題が生じる可能性があります。
また、対象会社が日本だけではなく、海外においても事業を行っている場合、海外事業・海外子会社についての情報を入手することが困難な可能性もあります。特に、多くの国において出入国が制限されている状況においては、サイトビジット等の現地実査は事実上困難であり、とりわけ買収是非の検討の前提である対象会社の事業オペレーションに関する情報収集面での課題となっています。
A.対象会社が(i)株式分割等を行った場合であって、かつ(ii)そのような場合には買付け等の価格の引下げを行うことがある旨の条件が公開買付開始公告及び公開買付届出書において付されている場合を除き、公開買付期間中に公開買付価格を引下げることはできず(金融商品取引法27条の6第1項1号)、新型コロナウイルス感染症の影響による対象会社の業績の悪化は(i)には該当しません。
したがって、新型コロナウイルス感染症の影響で対象会社の業績が大きく悪化した場合であっても、公開買付価格の引下げを行うことはできません。
A.公開買付者は、公開買付開始公告をした後においては、原則として、公開買付けの撤回を行うことはできません(金融商品取引法27条の11第1項)。
但し、以下の場合には、例外的に、公開買付けの撤回が認められています。
- ① 公開買付開始公告及び公開買付届出書において、対象会社及びその子会社の業務又は財産に関する重要な変更その他の公開買付けの目的の達成に重大な支障となる事情が生じたときは公開買付けの撤回をすることがある旨の条件を付した場合
- ② 公開買付者に重要な事情の変更が生じた場合
そして、①の「公開買付けの目的の達成に重大な支障となる事情」として、公開買付けの撤回事由とすることが可能となる具体的な事由は法定されています(金融商品取引法施行令 14 条 1 項)。法定された撤回事由は、大きく、(i)対象会社又はその子会社の一定の機関決定(同項1号)、(ii)対象会社における買収防衛策の維持の決定等(同項2号)、(iii)対象会社における発生事実(同項3号)、(iv)公開買付けによる株券等の取得について行政庁の許可等が得られなかった場合(同項4号)の4つに分けられます。
(i)対象会社又はその子会社の一定の機関決定は、対象会社又はその子会社で機関決定を行うことが撤回事由となる場合ですので、新型コロナウイルス感染症の影響によって対象会社の業績が大きく悪化しただけでは、これに該当しません。但し、業績の悪化に伴い、対象会社が、事業の全部又は一部の譲渡、重要な財産の処分等を決定した場合には、これに該当する可能性があります(もっとも、各撤回事由には軽微基準が定められているものがあり、これを満たさない場合には、撤回事由に該当しても、公開買付けの撤回は認められません。)。
次に(iii)対象会社における発生事実としては、(a)手形若しくは小切手の不渡り、(b)主要取引先(総売上高又は総仕入額の 10%以上である取引先)からの取引の停止を受けたこと等が挙げられており、これらに該当する場合には、公開買付けの撤回が認められます(これらにも、軽微基準が定められているものがあります。)。
また、(c)災害に起因する損害(軽微基準は、損害額が総資産の1%)も撤回事由とすることが認められておりますが、これは公開買付開始公告後に、予期せず発生した地震等が原則として想定されており、新型コロナウイルス感染症等の疫病の発生による損害がこれに該当するかについては明らかではありません。
なお、(iii)対象会社における発生事実としては、具体的に法定された事由に「準ずる事実」についても、公開買付開始公告及び公開買付届出書において撤回事由として指定することができるとされておりますが、公開買付者が自由に指定することができるわけではなく、事前相談において、関東財務局が許可したものに限って指定することができるというのが、実務上の運用です。関東財務局の運用としては、「準ずる事実」の指定については非常に厳しい運用を行っており、たとえば上記の「災害に起因する損害」に準ずる事実として「新型コロナウイルス感染症に起因する損害」等を指定することができるかについては関東財務局と十分な協議が必要であり、認められない可能性も十分に考えられます。実際のところ、新型コロナウイルス感染症の問題が大きくなった 2020 年 2 月以降に提出された公開買付開始公告及び公開買付届出書において、現時点において、新型コロナウイルス感染症に関連する事由が「準ずる事実」として指定されているものは存在しません。
したがいまして、新型コロナウイルス感染症の影響により、対象会社の業績が大きく悪化した場合であっても、公開買付けの撤回が認められる場合は相当程度限定されていますので、公開買付けの開始を決定する前に、新型コロナウイルス感染症の対象会社の業績への影響については、十分に検討をしておくことが必要になります。公開買付開始公告を行う日の前営業日に公開買付けの開始について決定し、かつ決定した事実をプレスリリースで開示することが一般的ですので、プレスリリースの開示の前にはそのような検討を済ませておくことが必要になります。
A.ここでは詳細は省略しますが、中国競争法等の関係で、公開買付けを行うことを決定し、プレスリリースにおいて開示した後、実際に公開買付開始公告を行い公開買付けを開始するまでに一定の期間をあけることが必要となる場合があります。その場合、実務上は、プレスリリースで公開買付価格についても具体的に記載することが行われています。
公開買付けを行うことをプレスリリースで開示した場合であっても、金融商品取引法上は、公開買付価格を引き下げること、又は公開買付けを開始しないこと自体は禁止されていません(不当な目的を有する場合には、相場操縦や風説の流布に該当しうる場合もありえます。)。
一方で、公開買付者が対象会社自身又は大株主との間で、所定の公開買付価格で公開買付けを開始することについて契約を締結し合意をしている場合には、当該合意に違反することになる可能性があります。また、公開買付けを行うことについてプレスリリースで開示した場合、市場への影響が極めて大きいため、対象会社が上場会社の場合には、上場証券取引所との関係で、公開買付価格を引き下げる、又は公開買付けを開始しないことが困難になる可能性があります。
もし、新型コロナウイルス感染症の対象会社の業績への影響によって、公開買付価格の引下げ又は公開買付けを開始しないことがありうる場合には、少なくともどのような場合にそのようなことがありうるかを具体的に定めた上で、プレスリリースにおいても明示しておくことは必要と思われます(プレスリリースで明示した場合であっても、現実
には、公開買付者のレピュテーションリスク等を勘案の上、当初公表した公開買付価格で公開買付けを事実上開始せざるをえなくなることも考えられます。)。
Q1.担当 佐橋雄介弁護士、Q2.担当 青柳良則弁護士、Q3.担当 戸倉圭太弁護士、Q4.~Q6.担当 飛岡和明弁護士
↑ PAGE TOP
A.取引先と十分に協議をした上で、取引先の同意を得た場合には、契約の変更が可能と考えられます。その場合、報酬額や支払期日等の新たな取引条件については、書面等により明確化しておく必要がありますのでご留意ください。
なお、この取引変更により、取引先に新たに発生した費用等については、独占禁止法、下請法、下請振興法の趣旨に鑑み、取引先に負担させないことが望ましいと考えられます。例えば、追加の費用が発生した場合には、取引先の負担とせずに報酬額に上乗せをすること、既存の契約を解除する場合には、取引先において既発生の費用について、取引先に支払うことが望ましい対応と考えられます。
*経済産業大臣、厚生労働大臣、公正取引委員会委員長から関係事業者団体代表者宛てに発せられた令和2年3月10日付「新型コロナウイルス感染症により影響を受ける個人事業主・フリーランスとの取引に関する配慮について」参照
A.個別の取引条件にもよりますが、取引先からの今般の新型コロナウイルス感染症の影響を理由とした納期延長等の求めに対しては、納期の不遵守による契約解除や債務不履行に基づく損害賠償請求等を行うことなく、十分に協議した上で、できる限り柔軟に対応することが望ましいと考えられます。
加えて、このような取引先に対して取引停止または大幅な取引量の減少を行うことにも注意が必要です。下請振興法の規定に基づく振興基準(以下「振興基準」という。)において、継続的な取引関係にある場合に、取引の停止又は大幅に取引を減少しようとする場合には「親事業者は、相当の猶予期間をもって予告する」旨を明記しています。このため、親事業者は、下請事業者の経営に配慮しながら、下請事業者と十分に協議して、現状の取引内容や取引条件の確認と今後の発注に係る対応を決定する必要があります。
*公正取引委員会・中小企業庁「新型コロナウイルス感染症拡大に関連する下請取引Q&A 問2」参照
*経済産業大臣、厚生労働大臣、公正取引委員会委員長から関係事業者団体代表者宛てに発せられた令和2年3月10日付「新型コロナウイルス感染症により影響を受ける個人事業主・フリーランスとの取引に関する配慮について」参照
A.商品の供給が一時的に不足しており、当該商品に代わる商品が存在しない場合に、関連性のない製品とセット販売を行うことは、独占禁止法が禁止する不公正な取引方法(抱き合わせ販売等)(独占禁止法第2条第9項第6号等)に該当する可能性が高いと考えられます。そのため、供給不足に陥っている商品と他の製品とのセット販売は行わないようにしてください。
*公正取引委員会(令和2年2月27日)「新型コロナウイルスに関連した感染症の発生に伴うマスク等の抱き合わせ販売に係る要請について」参照
A.小売業者と納入業者の間の買取取引においては、納入業者は商品の引渡し義務を負うだけで、店舗の陳列作業等は本来的には買主である小売業者が行うべき役務です。そのため、店舗の陳列作業や宅配業務について、納入業者の従業員等に協力させること(従業員派遣)は、原則として納入業者にとっての不利益行為に当たります。そして、小売業者が納入業者に対して優越的な地位にある場合、当該不利益行為は独占禁止法で禁止する優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号ロ)に該当する可能性が高いです。
ただし
- (1)従業員等の協力(従業員派遣)の条件についてあらかじめ相手方と合意し、かつ、当該従業員の協力のために通常必要な費用を小売業者(買主)が負担する場合、又は
- (2)従業員等が自社の納入商品のみの販売業務に従事するものなどであって、納入業者の負担が派遣を通じて納入業者が得ることとなる直接の利益等を勘案して合理的な範囲内のものであり、納入業者の同意の上で行われる場合
現状の新型コロナウイルス感染症の影響に鑑みると、小売業者の営業が円滑に行われることや、外出が困難となっている中で小売業者が生活物資を直接消費者へ配達することは市民生活を支援するために有益と考えられます。一方で、営業時間中の納入作業や宅配作業は不特定多数の客と接触することが想定されるため、このようなリスクを納入業者に不当に押し付けることがないように、実施方法・条件について小売業者と納入業者との間で十分に協議を行い、かつ、上記 (1)か(2)の要件を満たす場合には、納入業者に、店舗の陳列作業や宅配業務について協力を要請することも可能と考えられます。
また、同様の行為は、下請法上の不当な経済上の利益提供の要請(下請法第4条第2項第3号)にも該当する可能性がありますので、下請法が適用される取引の場合、この点にも注意が必要です。
*公正取引委員会・中小企業庁「新型コロナウイルス感染症拡大に関連する下請取引Q&A問11」参照
*公正取引委員会「東日本大震災に関連するQ&A問3及び問7」参照
A.下請事業者に責任がある場合を除き、発注済みの物品等について親事業者が受領拒否をしたり返品したりすることは、下請法上問題となります(下請法第4条第1項第1号及び第4号)。そのため、親事業者は、他の営業所や倉庫等の代替的な場所での受領の可能性も含め可能な限り当初定めた納期で受領する手段を講ずる必要があります。しかしながら、例えば、都道府県の要請を受けて営業を自粛しているため、客観的にみて当初定めた納期に受領することが不可能であると認められる場合には、両者間で十分協議の上、相当期間に限り納期を延ばしても、公正取引委員会等が下請法違反に基づく措置等を取る可能性は低いと考えられます。親事業者は、このような特別な事情や経緯について、事後的にも説明できるように記録を作成しておくことが求められます。
また、この場合下請事業者に追加で生じた保管費用等の追加費用については、原則として、親事業者が負担する必要があります。下請事業者に対し、親事業者が支払うべき費用を負担させることは、不当な経済上の利益提供要請として下請法上問題となりますので注意が必要です(下請法第4条第2項第3号)。
*公正取引委員会・中小企業庁「新型コロナウイルス感染症拡大に関連する下請取引Q&A問1」参照
*公正取引委員会「東日本大震災に関連するQ&A問4」参照
A.個別の事案にもよりますが、下請事業者に責任がある場合を除き、親事業者の都合で一方的に発注をキャンセルし、商品の受領を拒否して支払いを拒む行為は、受領拒否として、下請法上問題となります(下請法第4条第1項第1号)。したがって、親事業者としては、部品Bだけ受領しても商品Cを製造できないという下請事業者に責任がない他の部品の調達不能を理由に、発注をキャンセルしたり、支払いを回避することはできません。
*公正取引委員会・中小企業庁「新型コロナウイルス感染症拡大に関連する下請取引Q&A問1」参照
*公正取引委員会「東日本大震災に関連するQ&A問9」参照
A.生産・調達コストが大幅に上昇するなどの新型コロナウイルス感染症の影響による単価の引上げについては、親事業者と下請事業者との間で十分協議を行って決定することが望まれます。
具体的な事実を踏まえて判断することとなりますが、例えば、人手不足による人件費の上昇、供給不足による部品の価格高騰など、新型コロナウイルス感染症の影響により下請事業者のコストが通常の発注に比べて大幅に増加するような発注にもかかわらず、下請事業者と十分に協議することなく、通常の発注をした場合の単価と同一の単価に一方的に据え置くことは、買いたたきとして下請法上問題となるおそれがあります(下請法第4条第1項第5号)。
*公正取引委員会・中小企業庁「新型コロナウイルス感染症拡大に関連する下請取引Q&A問8」参照
*公正取引委員会「東日本大震災に関連するQ&A問11」参照
A.親事業者が下請事業者に対して単価引き下げを行う理由を明確に示して十分な協議を行った上で、単価を引き下げるのであれば、下請法上直ちに問題にはなりません。
しかし、親事業者の損失補填のみを理由として一方的に、一律一定率で単価を引き下げて下請代金の額を定めることは、買いたたき(下請法第4条第1項第5号)として、下請法上、問題となるおそれがあります。
また、下請代金に係る価格交渉とは別に、下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、新型コロナウイルス感染症対策値引き等の名目の金額を下請代金から差し引けば、下請代金の減額(下請法第4条第1項第3号)として、下請法上、問題となり、また、協賛金の提供をさせることで下請事業者の利益を不当に害する場合には、不当な経済上の利益提供要請(下請法第4条第2項第3号)として、下請法上、問題となります。
*公正取引委員会・中小企業庁「新型コロナウイルス感染症拡大に関連する下請取引Q&A問9」参照
A.支払方法の変更や手形期間の変更により生じる下請事業者のコストを負担しないで一方的に下請代金の額を据え置く場合には、買いたたき(下請法第4条第1項第5号)として、下請法上、問題となるおそれがあります。
また、下請代金を手形で支払う場合に、繊維業については90日、その他の業種については120日を超える手形を用いるときは、割引困難手形(下請法第4条第2項第2号)として、下請法上、問題となるおそれがあります。
なお、下請事業者から、製造委託した物品等を受領している又は提供を受けているにもかかわらず、支払期日に下請代金を支払わない場合には、支払遅延(下請法第4条第1項第2号)として、下請法上、問題となります。支払期日を延期(支払を猶予)してもらうよう下請事業者に依頼し、合意を得た上で支払わない場合も同様である点には、特に注意が必要です。
この場合、下請事業者に対し、下請事業者の給付を受領した日から起算して60日を経過した日から支払をする日までの期間について、遅延利息(年率14.6%)を支払わなければなりません。
*公正取引委員会・中小企業庁「新型コロナウイルス感染症拡大に関連する下請取引Q&A問10」参照
A.下請事業者の責任によって納品されなかった数量分に係る下請代金について支払わなくても下請法上問題になることはありません。しかし、契約にペナルティ条項があったとしても、数量不足等による商品価値の低下を理由に下請代金を減額する場合には、客観的に相当と認められる額に限られますのでご注意ください。
それに加えて、新型コロナウイルス感染症の影響の下、下請事業者が納品できた分についても、当初想定したコストより高コストとなっている可能性もあります。
このため、下請代金の額を減じることができる場合であっても、一方的に減じるのではなく、当事者間で十分に協議を行い、減じるべき合理的な金額について決定することが望ましいと考えます。
*公正取引委員会・中小企業庁「新型コロナウイルス感染症拡大に関連する下請取引Q&A問6」参照
A.親事業者が、下請事業者に対し、安全管理の強化を指示することが直ちに問題になるものではありません。
しかし、安全管理を強化したことにより下請事業者に追加で費用が生じているにもかかわらず、それを考慮せずに下請代金の金額を一方的に据え置く場合、買いたたき(下請法第4条第1項第5号)として、下請法上、問題となるおそれがあります。
そのため、親事業者としては、下請事業者と実効性を含めて安全管理に係る協議を行った上で、安全管理の実施方法や費用負担の内容を決定することが妥当です。
安全性の確保を理由とするにしても、本来であれば親事業者が自ら負担すべき費用を下請事業者に一方的に転嫁すべく、親事業者が、下請事業者に責任がないのに、下請代金の減額(下請法第4条第1項第3号)を行うことや、自己のために金銭を提供させ、下請事業者の利益を不当に害すること(下請法第4条第2項第3号)は、下請法上、問題となります。
*公正取引委員会・中小企業庁「新型コロナウイルス感染症拡大に関連する下請取引Q&A問12」参照
Q1.~Q11.担当 臼杵善治弁護士、石田健弁護士、植村直輝弁護士
↑ PAGE TOP