発行年月日 | 2022年1月28日 |
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近時、地球規模の課題とその達成目標を示したSDGsがますます注目されています。アンダーソン・毛利・友常法律事務所は、法律家として、いかにSDGsの達成に貢献できるかを模索し続けています。 当事務所は、クライアントの持続可能な成長に向けた法的課題をあらゆる角度からサポートすべく、各専門分野における弁護士がSDGsに関する知見を深め、サステナビリティ法務のベスト・プラクティスを目指します。
本特集では、SDGsに関する当事務所の取組みをご紹介すると共に、サステナビリティ法務に関する継続的な情報発信を行ってまいります。
当事務所のSDGsに関する取組みの一つとして、この度、慶應義塾大学SFC研究所xSDG・ラボ(以下「xSDG・ラボ」)が推進する研究コンソーシアム「xSDG コンソーシアム」に加入しました。(プレスリリースはこちら)
そこで、本特集の第1回では、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授(専門分野:国際関係論、地球システムガバナンス)であり、xSDG・ラボの代表者でもある蟹江憲史氏にお話を伺い、そのインタビューの様子をご紹介いたします。
※インタビュー実施日:2022年1月6日オンラインにて実施。
【第1回】蟹江教授とSDGsについて考える
(慶應SFC・蟹江憲史教授(サステナビリティ学)×パートナー弁護士・清水亘)
目次
Q1:SDGsとは
清水蟹江先生、本日は、お忙しいところありがとうございます。SDGsは「未来の世界の骨格」であるとご著書にお書きになっていらっしゃいますが、改めて、SDGsとは何なのかを教えていただけますでしょうか?
蟹江氏SDGsには、我々がこの地球上に住み続け、一人も取り残さずに繁栄を続けるために、やらなければならないことが書かれています。SDGsは、「未来の世界のかたち」を示していて、それが17のGoalに整理されています。
SDGsの特徴は、環境・経済・社会の3つの要素が一つになっていることです。これまで、日本では、地球全体としての課題といえば、環境問題ばかりが取り上げられていました。ところが、SDGsには、貧困などの経済課題や女性の活躍などの社会課題も含まれています。私は、サステナビリティ(Sustainability)について20年間研究していますが、ここまで課題認識が広がったことに感銘を受けています。
他方で、SDGsが良いことばかり列記していることの悪い面も見え始めています。例えば、ある企業が、SDGsの1つのGoalの実現に貢献する活動をしているけれども、実際には、その過程で大量のごみを出して環境に悪影響を与えている、という事例が少なからず見受けられます。いわば、SDGsにコミットするふりなのですが、このような事例はもちろん本末転倒です。
Q2:SDGsに対する海外の認識
清水この1、2年、日本でのSDGsの盛り上がりはかなり顕著で、NHKでSDGs番組が放送されるようにまでなっています。これは他国でも同様なのでしょうか?
蟹江氏確かに、日本でのSDGsの盛り上がり方は飛び抜けています。私も、いま大人気のYOASOBIが歌う「ツバメ」(NHKのSDGs番組テーマソング)を含むNHKのSDGs番組の監修をしています。日本がここまで盛り上がっているのは、国連を権威と考える人が多く、その国連がSDGsを提唱しているからでしょう。
私が在外研究のために現在滞在している米国では、SDGsという言葉を街中で見かけることはありません。国連に対する考え方も様々です。もっとも、サステナビリティという言葉はよく耳にしますので、目指しているものは共通していると思います。
また、ヨーロッパでは、私が留学していた1990年代後半から、マイバッグを持つのが習慣になっていたり、多様な人がいるので差別に気を付けたりしました。ヨーロッパでは、いまさらSDGsを持ち出すまでもなく、人権や多様性、環境などに関する問題意識が身に付いているのだと思います。
発展途上国では、まだまだ開発に資金や援助が必要です。貧困の問題を解決しようとすれば環境が破壊されるというような難しい状況にあり、国によって色彩がかなり異なっています。
いずれにせよ、SDGsは、これまで経済合理性のみを重視しがちだった日本が方向転換し、サステナブルな社会の実現について考える良いきっかけになっていると思います。
Q3:SDGsに関する国際レベルの最新動向
清水SDGs のような課題設定の仕方は、日本向きだったのかもしれませんね。ところで、SDGsに関して、今年(2022年)、国際レベルでの最新動向があれば、教えてください。
蟹江氏今年はとても重要な1年だと思っています。
まず、国連では、毎年7月に、SDGsの進捗状況を見る「ハイレベル政治フォーラム」が開催され、事務総長からグローバルな指標の評価が公表されます。今年は、2019年以来の対面での開催が期待されています。
また、今年は、1972年にスウェーデンのストックホルムで「国連人間環境宣言」が出されてから50年にあたります。そこで、今年6月には、「すべての人が繁栄するための健康な惑星」をテーマとして、「ストックホルム+50」と題する会議が開催される予定です。
そして、今年9月には国連総会も開催されます。2023年に開催が予定されている国連「SDGsサミット」の前哨戦として重要です。SDGsが達成の目標としている2030年を考えますと、2023年は最も大切な会議になると見込まれるからです。
「SDGsサミット」では、国際的な評価報告書(Global Sustainable Development Proposal)が発表される予定で、現在、私を含めた15人のメンバーで執筆を進めています。この報告書では、「どのようにすれば変革が起きて、それが世界に広がっていくのか?」という観点を中心に「このようにすれば良い」という提言をメッセージとして発信できるようにまとめたいと考えています。
Q4:SDGsと法(ルール)
清水SDGsは目標であってルールではないと理解しています。SDGsの実現という観点で、今後、法(ルール)には何が期待されるでしょうか?
蟹江氏SDGsの良いところは、各国の状況にあわせて取り組めるようになっていて、ルール化することもしないこともできるという点だと思います。もちろん、SDGsそのものはルールではありませんが、個人的には、ルール化できるところはどんどんルール化していけば良いと考えています。例えば、ヨーロッパ各国では、人権デュー・ディリジェンス(Human Rights Due Diligence)がルール化されつつありますし、再生可能エネルギー(Renewable Energy)がルール化された国もあります。
そして、私は、日本で、サステナビリティに関する基本法を作りたいと思っています。そもそもSDGsは倫理規範の体系ですので、基本法は緩やかな理念を示すことで十分です。そのような理念を示した基本法であっても、あるとないとでは大違いなのです。基本法があれば、政府を巻き込んで閣議レベルの議論ができますし、地方公共団体にも波及するからです。
私も円卓会議のメンバーになっている政府のSDGs推進本部は、2023年の国連総会に合わせた「SDGs実務指針」再改定をが今のところの1つの目標としていますが、インターネットに関する基本法(高度情報通信ネットワーク社会形成基本法)が数年後にデジタル庁の設置に結び付いたように、SDGsに関する国内の取組みを加速化するためには、基本法の存在が不可欠と考えています。
xSDGラボのコンソーシアムでの議論などを通じて、弁護士のみなさんのご知見をぜひお借りしたいと思っています。
Q5:最後に
清水ありがとうございます。ぜひお手伝いさせてください。本日のお話を伺って、蟹江先生の思いは、サステナビリティの現実化にあるのだと理解しました。最後に、蟹江先生の目標などがございましたら、ご教示いただけますでしょうか?
蟹江氏私は、もともと環境問題を研究していました。そして、いまのままでは、環境が持たない、地球が持たないということが様々なデータから明らかでした。他方で、いまの仕組みで貧困を解消しようとすると、地球が悪くなるという負の現実も分かっていました。
そこで、私は、仕組み自体を大きく変えないといけないと考えたのです。資本主義は限界だという議論がありますが、私自身は、資本主義は修正されながら続かざるを得ないと考えています。だとすれば、我々の意識や規範を変えなければならないのです。
国連は、SDGsにおいて初めて包括的に、ルールではない形での規範を作りました。私は、SDGsに示された「未来の世界のかたち」を実現するためにできることをしていきたいと思っています。そして、日本は、サステナブルな社会を実現し、SDGsで世界をリードできるようになるのではないかと期待しています。
清水SDGsの達成に向けてどのように世界に貢献できるのか、我々も考え続けたいと思います。蟹江先生、本日は、ありがとうございました。