特集:サステナビリティ法務【第8回】
三井物産戦略研究所・本郷氏とカーボン・クレジットの動向について考える
(三井物産戦略研究所 国際情報部 シニア研究フェロー・本郷尚氏×スペシャルカウンセル弁護士・宮川賢司)
発行年月日 | 2023年2月1日 |
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近時、地球規模の課題とその達成目標を示したSDGsがますます注目されています。アンダーソン・毛利・友常法律事務所は、法律家として、いかにSDGsの達成に貢献できるかを模索し続けています。 当事務所は、クライアントの持続可能な成長に向けた法的課題をあらゆる角度からサポートすべく、各専門分野における弁護士がSDGsに関する知見を深め、サステナビリティ法務のベスト・プラクティスを目指します。
本特集では、SDGsに関する当事務所の取組をご紹介すると共に、サステナビリティ法務に関する継続的な情報発信を行ってまいります。
本特集の第8回では、三井物産戦略研究所 国際情報部 シニア研究フェローの本郷尚氏にインタビューを実施しましたので、その様子をご紹介いたします。
※インタビュー実施日:2022年12月23日オンラインにて実施。
【第8回】三井物産戦略研究所・本郷氏とカーボン・クレジットの動向について考える
(三井物産戦略研究所 国際情報部 シニア研究フェロー・本郷尚氏×スペシャルカウンセル弁護士・宮川賢司)
目次
Q1:総論
宮川本日はよろしくお願いいたします。まず、現在の本郷様のお仕事をご紹介いただけますでしょうか?
本郷氏こちらこそ、よろしくお願いいたします。私は、三井物産戦略研究所に所属しておりまして、メインのお仕事として、親会社である三井物産の経営幹部に対して、いわゆるサステナビリティに関する長期戦略のアドバイスや情報の提供を行っています。
主に担当している分野は、大枠でいいますと、環境、気候変動、エネルギーといったところです。そのなかでいま特に注力していますのは、排出量取引です。テクノロジーとしては、二酸化炭素CO2の回収・貯留、いわゆるCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)にも注力しています。
個別論を超えたところでは、企業のリスク・マネジメントにも力を入れています。気候変動制約、CO2削減、気象災害というような課題にどのように対応するかというリスク・マネジメントや、ビジネスの機会の創出も含めて、総合的な長期戦略はどのようにあるべきか、という課題に取り組んでいます。
宮川外部の研究会等でもご活躍です。
本郷氏はい、外部の研究会や検討会にも幅広く参加しています。国内では、政府の気候変動、エネルギー、それから衛星技術活用等も含めた科学技術の検討に参加しています。国際的な活動としては、国際排出量取引協会(International Emissions Trading Association)のボードメンバーを10年くらいやっています。国際民間航空機関(International Civil Aviation Organization)が取り組んでいる国際航空の排出削減のタスクフォースにも参加しています。
Q2:GXの必要性について
宮川本日は、排出量取引、あるいはカーボン・クレジットの観点からお話を伺えればと思います。
いま正に、GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議等でGXの必要性が議論されていますが、一方で、ウクライナ侵攻のような難しい国際情勢のなかでエネルギー供給不足が発生したりもしています。このような状況下で、日本企業は、GXとどのように向き合えばよいのでしょうか?
本郷氏はい、最初に結論をいえば、GXが必要だと私は考えています。おそらく、多くの企業も、多くの人達も、そのように考えていると思います。
ただ、足元のエネルギー危機で困っている人々がいる中で、それを無視してGXだけを長期的な対策としてやるというのは、やはり本末転倒といわざるを得ないと思います。GXは、気候変動や地球規模の課題を解決するという長期的な目標のためにやるものですから、足元の問題と長期的な課題をどのようにバランスさせるかということが重要だと思います。
宮川バランスを取るのは難しそうです。
本郷氏はい、言うのは易しいですが、実行するのは大変です。ものごとには片方を立てればもう片方が立たないトレードオフの関係があり、バランスを取るといっても、一律に決まったやり方がある訳ではありませんから、それぞれの国、それぞれの企業が、どのようなプライオリティを付けるのか、自分で考えて判断しなければなりません。日本も世界の1つの国ですから、日本なりの立ち位置があるし、欧州や米国とも役割が違う。産業ごとに状況も違います。エネルギー危機と地球規模の課題というトレードオフは特に難しいです。そこで、トレードオフの関係を少し緩和する方法としては、選択肢を増やす方法があると思います。今まで落としていた選択肢が、実は、重要かもしれないという意味です。
この点では、ドイツの例が参考になると思います。ドイツは、2010年代に、石炭火力や原子力をやめると宣言しました。ところが、ドイツは、ロシアからの天然ガス輸入への依存度が非常に高いので、ウクライナ侵攻とその後の制裁の影響でロシアからの天然ガスの輸入がなくなってしまうと、国内のエネルギー消費を上手くマネージすることができません。もちろん、ロシア以外の国からLNG(液化天然ガス)を買うでしょうし、省エネや再生可能エネルギーも加速するでしょうけれど、それだけで足りないのは計算すれば分かります。そこで、ドイツは、地元の石炭を活かして、止めていた石炭火力を再稼働させたのです。また、エネルギー危機が長引く可能性を想定して、原子力発電の運用を延長することにしました。それまでの制約条件のなかでは、これらの選択肢がなくてもなんとかなったのですが、外部環境の変化があって、今ある選択肢だけでは解決できなくなったので、それ以外の選択肢を復活させたのですね。非常に現実的なやり方です。
日本が進めるGXも、エネルギー危機下にあっては、もう少し幅広く、いろいろな選択肢を考えなければならない状況だと思っています。
Q3:カーボン・クレジットの活用について
宮川ポリシーミックスというような話につながっていくのかなと思いますけれども、2022年6月に経済産業省が発表した「カーボン・クレジット・レポート」は、いわゆるヒエラルキーアプローチの考え方をとっています。ヒエラルキーアプローチは、まず省エネの促進等の自らの行動で温室効果ガスを削減するという考え方ですが、「カーボン・クレジット・レポート」では、カーボン・クレジットの活用も提言されています。このヒエラルキーアプローチとカーボン・クレジットの活用は、どのような関係に立つのでしょうか?
本郷氏ヒエラルキーアプローチは、宮川さんにもご参加いただいている経済産業省の排出ネットゼロ研究会の第1回で打ち出しました。排出ネットゼロを目指すにあたって、何が必要かを考えると、クレジットなしにはなかなか難しい。しかし、クレジットに対してはいろいろな意見があるので、みんなが共通の土俵で議論できるようにしなければならない。そこで提案したのが、ヒエラルキーアプローチでした。これは、環境問題を考えるにあたっての基本的な考え方を気候変動問題に応用したものです。まず省エネをして、そのうえで低炭素化されたエネルギーに切り替え、そして残ったものをクレジットでオフセットしましょう、という考え方です。一番が省エネ、二番がエネルギー転換、三番がクレジットという順番です。
このヒエラルキーアプローチでは省エネが最大のポイントであるところ、省エネで最近注目すべきなのは、EUの方針です。EUは、ロシアの天然ガスが使えなくなることを踏まえて、天然ガスの代替先(代替LNG)を探す等様々な方針を出していますが、真っ先に述べられているのが省エネなのです。これまで、EUは、どちらかといえば、再生可能エネルギーを拡大することで地球規模の問題を解決できるとして、いわばエネルギーの拡大と均衡を目指していたのですが、現実的に見ると、やはりそれは難しい。再生可能エネルギーはどこまでも増やせるものではありませんし、時間もかかります。その現実が見えてきて、省エネの大切さがEUでも認められた、ということだと思います。ちなみに、IEA(国際エネルギー機関)の「10-Point Plan to Cut Oil Use」も、省エネを推進する考え方です。
宮川まずは省エネ、クレジットを考えるのはその後、ということですね。
本郷氏はい、省エネをやっても再生可能エネルギーをやっても、残余排出、つまり削減できなかった排出はやはり残るということが見えてきました。これをクレジットによって削減することは、型通りの説明をすれば、残余排出をオフセット(相殺)する最後の手段、ラストリゾートという位置付けになっています。
ただ、よく考えてみますと、削減しきれなかったというのは、どのように削減しきれなかったのか、この定義が非常に微妙です。技術的に見てどうしても削減できないものも当然ありますが、技術的には削減できるのだけど、10年も20年も時間がかかるものもあります。また、技術は使えるけれども、極端に高くて経済的に実現不可能という場合もあるでしょう。さらにいえば、技術もあるし、コスト的にもある程度実現できるけれども、他に悪影響が懸念される場合もあります。例えば、バイオ燃料のようなケースで、仮にバイオ燃料が安くなってもバイオ燃料を供給するためにたくさんの土地を使えば、農業生産やその土地の生物多様性に悪影響を与える訳です。このように考えてみますと、削減しきれなかった排出量の背景には、いろいろな理由があります。
そうしたものを総合勘案して、現実的な手法として、クレジットを使ったカーボン・オフセットを考えることになります。
宮川なるほど。では、どのような場合に、削減できなかった排出量をクレジットとしてオフセット(相殺)するのがよいのでしょうか?
本郷氏その点にも、議論があります。例えば、ネットゼロの社会を想定し、ネガティブな排出になる場合にのみクレジットを使うべきであるという考え方があります。また、昨日よりも今日の方が排出量を削減したのであれば、これも立派な削減ですから、他社がそのようにやったものを借りるという意味で、省エネのクレジットを使ってもよいという考え方もあります。
つまり、どのような状況で削減しきれなかったらクレジットを使うのかという点と、どのようなクレジットでオフセット(相殺)するのかという点で、ヒエラルキーアプローチのなかにも幅があります。ヒエラルキーアプローチは、いわば憲法のようなものですので、基本理念はありますが、実際の運用にあたっては考え方を整理しなければなりません。
企業としては、何かよりどころが欲しくなると思いますが、正解がある訳ではありません。やはり自分で考えなければならないし、クレジットを使いたくないという考えが企業にあるならば、クレジットを使わなければよいのです。
クレジットによるカーボン・オフセットは、貿易や分業の利益と同じく、経済学的に見れば、非常に合理的な手法です。クレジットをどのように使うのかは、企業の戦略次第だと思います。無理やり使えというものでもないし、絶対に使ってはいけないというものでもない。企業の理念や国際的な慣行を視野に入れつつ、企業が判断する、それがクレジットの正しい利用の仕方ではないかと思います。
Q4:カーボン・クレジットへの関わり方について
宮川ありがとうございます。カーボン・クレジットを活用する場合、日本企業は、クレジットの供給側に立ったり、需要側に立ったり、あるいは仲介だったり、いろいろな立場になり得ると思います。企業は、カーボン・クレジットにどのような立場で関わっていくべきでしょうか?
本郷氏クレジットの最初に難しい点は、エネルギーや食糧と違って、本質的な需要がある訳ではない点です。クレジットは、規制や外部からのプレッシャーによって需要や供給が生まれたにすぎません。したがって、企業がクレジットに取り組むにあたっては、前提として、どのような目的のためにやるのかを整理すべきだと思います。規制対応なのか、あるいは規制を全部クリアしたうえでの自発的な取り組みなのか、というようなことです。また、クレジットの供給者側であれば、需要者側のことを考える必要があります。誰がそれを欲しがっているのか、彼らの欲しがっている内容は何なのかをよく確認する必要があると思います。これらの点がクリアにならないままクレジットに取り組んでいて、対応が迷走している企業も少なからずあるような気がしています。
宮川なるほど。クレジットの売買という点ではいかがでしょうか?
本郷氏クレジットの売買をビジネスにすることは、いわばサービス提供です。これまではCO2を削減したところで、あまり大きなメリットがありませんでした。ところが、今後は、一定のルールに従ってCO2を削減すれば、クレジットを使って追加的な収入が得られます。非常に新しい注目すべきビジネスです。ルールを勉強しながら大いに利用していくべきだと思います。
なお、このような新しいビジネスに関しては、時間が経つにつれて、どんどん制度が変わっていきます。先行投資をすることは、企業がアップサイドをとるうえで重要ですが、いろいろな変化があり得ることをきっちり定めて、制度リスクを考慮しながら進めていくことが大切だと思います。
ところで、カーボン・クレジットは、新しいビジネスチャンスですが、クレジットを売りたい場合には、まず自分で使ってみることが大事だろうと思っています。新しい取組は、規制等も分かりにくくて、やってみないと分からないことがたくさんあります。ですから、企業は、クレジットを自分で使ってみることによって、課題や面白い着眼点が見えてくるのだろうと思います。例えば、当社はクレジットを皆さまに提供できますといっている会社が、実は、CO2をかなり排出していて、クレジットの販売担当者がそれを把握していないこともあります。いろいろな事業で省エネや再生可能エネルギーをやってCO2を削減している企業であっても、自らも当然、CO2を排出していますから、まずは自社の状況をきちんと把握して、自社でクレジットを使ってみる方法は悪くないと思います。
Q5:カーボン・クレジット市場について
宮川東京証券取引所で、カーボン・クレジット市場の実証実験が始まっています 。日本企業のみならず、海外企業も安心して参加できるカーボン・クレジット市場とするためには、どのようなことが必要でしょうか?
本郷氏最初にやらなければならないことは、海外の企業も参加することが日本にとってもメリットだという共通認識を作ることだと思います。デメリットに対する不安もあろうかとは思いますが、この基本的な了解なくして、前に進むことはできません。
そして、壁はやはり言語ですよね。確かに、自動翻訳ソフト等がありますが、実際の取引をするにあたっては翻訳ソフトに頼るわけにもいきません。海外の企業と一緒にやることがメリットだと分かったら、できるだけ英語での説明の機会を増やすことが大切だと思います。そして、海外の企業が入りやすいルールをみんなで作っていく。
日本では、EUの制度は素晴らしい、アメリカの制度はすごいぞ、日本は遅れている、といいがちです。もちろん政策協調や制度協調は大事だと思いますが、それぞれの国の状況は違います。例えば、欧州では電力市場が自由化されていて、たくさんの企業が参入して日常的に電力取引をしていますから、日本とはまったく状況が違います。つまり、それぞれの制度が成り立つ土壌、産業構造、エネルギー構造等の違いを踏まえつつ、それぞれの制度をきちんと尊重する必要があると思います。日本政府は、海外企業との連携を歓迎するという方針を出すと思いますし、日本企業にとっても歓迎すべきことですので、一緒にやるという雰囲気が大切だろうと思います。
宮川クレジットの組成を増やす、供給を増やすという観点で、海外企業と日本企業はどのような協力関係を築くのが望ましいでしょうか?
本郷氏国際的なビジネスでは、通常、インターナショナルなプレーヤーとローカルプレーヤーがいますが、実際の事業を行うにあたっては、ローカルプレーヤーが非常に重要です。ローカルの事情を知らないと危ないことが起きるからです。例えば、森林やネイチャーベースのソリューションは、現地の生活や住民、宗教をよく知らないと上手くいきません。インターナショナルにはベストプラクティスであっても、現地では上手くいかないというケースはよくあります。ダブルスタンダードにならないようにインターナショナルなものを作るとしても、ローカルな状況を無視してはできません。リーガルな面でも、ローカルの法令をきちんと理解していることは重要ですよね。
国際的なルールに慣れているインターナショナルプレーヤーと、現地の状況をよく知っているローカルプレーヤー、事業に応じて、両者のバランスといいますか、ポートフォリオを変えながら進んでいくことが大切です。カーボン・クレジット市場での海外企業と日本企業との関係も同じだと思います。
Q6:グリーンウォッシュについて
宮川ところで、カーボン・クレジットについては、グリーンウォッシュ、つまり、見せかけの環境対策だという批判も一部にあります。このグリーンウォッシュについては、どのようにお考えでしょうか?
本郷氏リスク・マネジメントとしても、かなり重要な点ですね。ただ、個人的には、以前から、何をもってグリーンウォッシュなのか、という点を明らかにしてから考える必要があると思っています。意外に、グリーンウォッシュの中身がはっきりしないものだからです。
まずは、グリーンウォッシュとは何であるかを、この言葉を使っている人達に質問してみるのがよいと思います。中身が整理されれば、それに対する対応もしやすいからです。これは、グリーンウォッシュであるという批判をリスクとして考える側であっても同じです。まずは、きちんと整理する必要があります。そのうえで、調べてみる。原因が分かって初めて対策を打てるからです。
そうしますと、一部は誤解によるということがあったりします。また、議論の前提や主観的な違いが問題になることもあります。そういった点を踏まえて、きちんとファクトを説明する。十分以上に説明することが企業にとっては必要です。それから、どのようなことに対しても反対意見が出てくる可能性はあるところ、特に環境問題を扱っていれば必ず反対意見が出てきます。何かをやれば必ず環境の負荷があり、その環境負荷が制度や社会慣行に照らして許容範囲内にあるかどうか、そこが議論のポイントになってきます。そのような場合、企業は、ファクトを調べ、「このような点にこのようなリスクがあり、このような対策をしています。したがって、環境負荷はありますが、それを上回る社会的なメリットや経済的なメリットがあります。」と、丁寧に説明することが大切です。小さな事業1つひとつで丁寧に説明することは大変ですが、考え方をきちんと示すことが大切だと思います。
丁寧に考え方を説明しても、いろいろな意見が出きます。先日のサッカーW杯でも、史上最高のワールドカップだったという人もいれば、最悪だったという人もいる。そのように意見が分かれることに対して、企業としては、たとえ手間がかかったとしても、我々はこのように考えますと説明し、場合によっては議論をする。それが、長期的には、その企業のレピュテーションを確立し維持するという観点で重要だろうと思います。
Q7:まとめ
宮川最後に、企業がGXを成長戦略につなげる際に注意すべき点があれば、教えてください。
本郷氏企業がキャッシュフローの分析をして事業の収益を考える際、事業によっては、その外部環境の変化を織り込んだ形でのセンシティビティ分析をします。この点、気候変動の問題の場合には、かなり大きな変化があり得ることに注意が必要です。例えば、CO2についても、カーボンプライスという形で表せれば、キャッシュフロー分析のなかに入れることができるのですが、カーボンプライスは外部環境として大きく変化する可能性があります。シナリオ分析においては、マーケットの変化等も考えていく必要がありますので、外部環境の変化を織り込んでしっかり分析することが大切なのですが、カーボンプライスの動向をどう見るかが分析のポイントになると思います。
ところで、シナリオ分析においては、自分でシナリオを作るのは大変なので、第三者に依頼したくなることがありますが、そこはぐっとこらえる方がよいと思います。シナリオ分析には様々なやり方があり、気候変動に関しては、スタンダードになりつつあるIEAバランスアプローチや、水素等を重視する北欧のアプローチ、再生可能エネルギー100%で簡単にできるNGO的なアプローチ等もあります。調べてみますと、それらはモデルが違うのではなくて、前提条件が違うのですが、前提条件が違うと結果もまったく違います。企業は、そうしたアプローチの違いをきちんと学ぶとともに、各アプローチの前提について、現実的かどうかと考えて議論することが大切です。議論を通して知識や経験を得ることができますし、いろいろなシナリオを比較することによって、自社の長期展望というものができてくるだろうと思います。
もう1つ、シナリオを作っても、必ず上振れや下振れはあるものだということを忘れてはいけません。シナリオの上振れ下振れについてのセンシティブ分析が必要ですし、いろいろな事業をやる企業であれば、ポートフォリオ的なアプローチも大切です。自社が考えるセンターシナリオはこうだけれど、もっと気候変動対策が進む方向に行った場合や、あるいは少し遅れた場合等、いろいろなパターンがあり得ると考えるべきです。結果として、想定されたシナリオに対して上振れしても下振れしても対応できる、そういうポートフォリオ的なアプローチが経営上重要になってくると思います。そのような観点からすれば、通常の事業分析とGXを経営戦略として考えるときとで、大きな違いはないといえるでしょう。
宮川カーボン・クレジットやGXに取り組む場合も、きちんとした分析が必要ですね。本日はありがとうございました。
2011年から三井物産戦略研究所。1981年日本輸出入銀行(現国際協力銀行)入行。特命審議役環境ビジネス支援室担当などを歴任。旧経済企画庁、旧日本興業銀行に出向。
国際排出量取引協会理事、ICAO CORSIAタスクフォース、ISO TC207(Carbon Neutrality)、ISO TC265(CCS)、などに参加。文部科学省・環境エネルギー科学技術委員会、環境省・CO2削減事業検証評価委員会、 NEDO 技術委員、各種委員会・研究会などに多数参加。最近では、GXリーグを前提としたカーボンクレジットレポートや民間JCMの報告、森林クレジット小委員会、CCSロードマップ検討会などに参加。日経産業新聞Earth新潮流にコラム連載(2011年~)獨協大学経済学部非常勤講師
講演、執筆など
国連気候変動関連会議、Carbon EXPO、ICAO、国際環境議員連盟、シンガポール国際水週間(SIWW)、Global Water Summitなど。モデレータ多数。参議院国際地球環境食料調査会参考人。
「低炭素社会へゲームチェンジ」(日経e新書)、Reform of Finance toward Green Growth in Asia、Road to Market Mechanism for Sustainable Use of Biodiversity、Circular Economy Potential and Public Private Partnership Model in Japan, Prospects of Quality Infrastructure and Private Sector MRV for Accelerating the Transition Toward Low Carbon, Energy Innovation of Finance for Industry 4.0 in ASEAN, Carbon Pricing to Promote Green Energy Projects など