

宇宙法は、宇宙技術の急速な発展を背景に、国際法・国内法の両面で近時さらなる深化に向けた模索が進んでいます。宇宙ビジネスに関わる様々な当事者にとって、宇宙法をめぐる最新の議論や動向をフォローすることがますます重要となっています。宇宙法に関するグローバルな議論を学術面から追求すべく、オランダのライデン大学国際航空宇宙法研究所にて客員研究員として研究活動に従事した山田智希弁護士は、その成果をさらに実践に活かす試みとして、アジア各国の宇宙法関係者と共にAsia Space Lawyers’ Forumを立ち上げました。本特集は、世界における宇宙法をめぐる近時の動向や今後の展望について取り上げた、同弁護士による寄稿です。
1. 「ニュースペース」時代はさらに次のフェーズへ
宇宙活動は、21世紀に入り、それまでの政府主導による国家プロジェクトという性格から、様々な民間事業者がビジネスとして活発に参入するフェーズへと突入しました。そうした新たな時代は「ニュースペース」と呼ばれていますが、この「ニュースペース」時代も、近時さらに新たな展開を見せつつあります。
一つは、宇宙ビジネスの高度化と多様化です。衛星通信分野でいえば、従前は静止軌道(GEO)上の大型衛星によるサービスが主流だったのに対し、最近はStarlinkに代表されるような低軌道(LEO)に多数の小型衛星を投入するメガコンステレーションが実用化され、これまで地上通信でカバーできなかった山間部等の地域に高速通信をもたらすなど、大きなインパクトを与えています。また、米国では有人でのサブオービタル飛行が既に商用化され、またアストロスケール社の宇宙デブリ除去をはじめとする軌道上サービスに関する実証実験が大きな進展を見せるなど、新たな宇宙ビジネスへの取組みが次々と進んでいます。
2. 米国・EUでの宇宙法の動向
そうした中、世界の宇宙開発をリードする国・地域においては、法制度のアップデートに向けた動きも活発になっています。
米国では、2025年8月に、ドナルド・トランプ大統領が、環境規制をはじめとする宇宙ビジネスに関する規制の緩和を実現するための大統領令に署名しました。トランプ大統領は、2025年12月にも有人月面探査を含む月面活動を推し進め宇宙分野における優位性を確保するための大統領令に署名していることから分かるとおり、第一次政権に引き続き宇宙開発に関して積極的な姿勢を示しており、宇宙活動に関する規制も今後そうした姿勢に応じ大きな変化を見せる可能性があります。
他方、EUでは、高度化・多様化する宇宙活動に対して適切な規制を及ぼすべく、欧州委員会がEU宇宙法案を公表し、欧州議会での審議が進められています。サステナビリティやレジリエンスといった視点が前面に出されており、一定の場合にはEU域外の事業者による宇宙活動にも適用があるとされるなど、先進的な内容が含まれています。それだけに、米国もいくつかの点について強い懸念を示すなど、世界中で議論を呼んでいます。2025年12月には修正版の草案が欧州議会に提示されており、今後どのような形で決着するのか、注目されます。
そして、我が国においても、宇宙活動法の改正に向けた検討が進められ、2026年の国会に改正法案が提出される見込みです。
3. 宇宙法の最先端を追い求め、ライデン大学へ
このように、宇宙をめぐる状況は近時急速に変化しており、宇宙法に関する専門的知見が必要とされる場面も増えています。宇宙法がカバーする領域は広範です。宇宙条約等の国家間の条約の締結がなかなか進まない中、その空白を埋めるために世界中で宇宙法に関する議論が進み、ソフト・ローの形成が試みられ、並行して各国の取組みが日進月歩で進展していく─現代の宇宙法を正確に理解するためには、宇宙法が拠って立つ国際法の議論だけでなく、現代の世界情勢や各国の安全保障政策、宇宙政策、そして立法の動向を理解しながら、大局的な視点に立つことが必要です。
弁護士として宇宙関連の実務に関わる機会が増える中で、宇宙ビジネスを真の意味で支え続けるためには、学術的なアプローチから宇宙法を見つめ直す機会が必要なのではないか─そう考えた私は、英国のロースクールでLL.M.と英国法弁護士(Solicitor)の資格を得た後、日本へはそのまま戻らず、オランダにあるライデン大学国際航空宇宙法研究所の客員研究員として、研究に従事する選択をしました。
研究機関での学術研究という、留学後の選択としてはあまり先例のないケースであったにもかかわらず、「日本の、そして世界の未来のために有意義な研究を存分にしてきてほしい」と、当事務所のメンバーは快く送り出してくれました。
ライデン大学は、航空宇宙法という先端分野をもう40年以上も研究対象としている、アカデミアでは著名な研究機関です。ライデンに赴いて驚いたのは、世界的な宇宙法の裾野の広さと、既に蓄積されている議論の膨大さです。私が研究テーマとして選んだ宇宙安全保障、HAPSなどの高高度活動、そして月面資源探査といった領域は、数十年以上も前から議論が積み重ねられ、山のような英語の論文と格闘する日々が続きました。英語での学術論文の執筆という新たな挑戦に挑む私を励ましてくれたのは、世界から集まるライデンのメンバー、そして、欧州で活発に開催されている宇宙関連イベントで出会った多数のspace lawyerたちでした。「自分のクライアントも日本に注目している。ぜひ一緒に仕事をしよう」と言ってくれる仲間たちにも励まされ、ライデンでの研究から多くの学びを得ることができました。
4. アジアにおける宇宙活動の深化と宇宙法─そしてAsia Space Lawyers’ Forumの創設へ
ライデンでの研究生活を通じて、一つの大きな気付きがありました。それは、日本以外のアジア各国にも、宇宙法の未来を見据えるspace lawyerたちが数多くいるということです。
冒頭で触れたような欧米の動向は、我が国でも様々な媒体で報道されるなど注目を集めていますが、これらの国以外にも、宇宙開発に力を入れる国が増えていることにも目を向ける必要があります。特に、アジア各国の動向は、我が国の政府や事業者による今後の宇宙戦略を考える上でも重要です。
たとえば韓国は、2025年11月に国産ロケット「ヌリ」の4号機が打上げに成功するなど、高い宇宙輸送技術を有しており、官民あげての宇宙開発が進められています。また、インドネシアは、アジア地域の中でも早期に宇宙活動に関する法を制定しており、宇宙活動への関心が高い国です。自国の技術による宇宙輸送は実現していないものの、地理的な特徴を生かし、スペースポート(宇宙港)に関する法制度の整備に向けた動きなどが見られます。タイも、人工衛星の活用が進みつつあるうえ、月面活動について米国主導のプロジェクトと中国主導のプロジェクトいずれにも参加を表明し話題となるなど、新たな宇宙活動への進出を目指しています。
他方、我が国も含め、急速に深化する宇宙活動に対する各国宇宙法の対応は、まだまだこれからという段階です。各国とも政治情勢をはじめとする特有の課題を抱える中、国際法のレベルでの様々な議論や宇宙ビジネスの展望も視野に入れつつ、多角的な議論を進めることが、いま求められています。
そうであるならば、これまでのアジアにおける様々な連携・協力の歴史を踏まえ、アジア各国の宇宙法関係者が一堂に会し議論を重ねることを通じ、宇宙法の深化を目指す場を作ることはできないか─そうした思いを持った私は、ライデンでの研究をきっかけに知り合ったアジア各国の実務家、当局関係者、そして研究者らと共に、Asia Space Lawyers’ Forumを創設するに至りました。
Asia Space Lawyers’ Forum は、2025年12月、AMTの東京オフィスにて第1回の会合を開催し、青木節子千葉工業大学特別教授、ElevationSpace COOの宮丸和成氏、AMT客員の中川淳司中央学院大学教授をまじえ、当事務所の清水亘パートナー弁護士らスペースローチームのメンバーも加わり、アジアにおける今後の宇宙法のあり方について活発な議論を交わしました。
また、同日には宇宙航空研究開発機構 (JAXA)を訪問し、世界の当局関係者と日頃から宇宙法に関する議論を重ねている方々と、近時の注目トピックなどについて意見を交換しました。
5. 今後に向けて
Asia Space Lawyers’ Forumは、今後、より多くの宇宙法関係者に参加いただき、議論をさらに深めた上、その成果を様々な形で継続的に発信していきたいと考えています。
宇宙ビジネスは、技術の急速な進展に伴いますます複雑化し、法的な課題に直面するケースも増えてきていると感じます。そうした日々の実務から示唆を受けながら、学術研究の成果を生かしつつ、多くの方々とともに日本、アジア、そして世界の宇宙法の健全な発展に貢献できたらと思っています。
なお、Asia Space Lawyers’ Forumにご関心のある方向けに、今後ご希望に応じ、アジア各国の宇宙法に関する動向や我々の議論の成果、そして第2回の会合の予定などを継続的に発信していくことも考えています。もしAsia Space Lawyers’ Forumの活動についてご質問やご関心がございましたら、以下までどうぞお気軽にご連絡ください。
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