近時、地球規模の課題とその達成目標を示したSDGsがますます注目されています。アンダーソン・毛利・友常法律事務所は、法律家として、いかにSDGsの達成に貢献できるかを模索し続けています。 当事務所は、クライアントの持続可能な成長に向けた法的課題をあらゆる角度からサポートすべく、各専門分野における弁護士がSDGsに関する知見を深め、サステナビリティ法務のベスト・プラクティスを目指します。
本特集では、SDGsに関する当事務所の取組をご紹介すると共に、サステナビリティ法務に関する継続的な情報発信を行ってまいります。
本特集の第6回では、東京大学 未来ビジョン研究センター 教授・国立環境研究所 地球システム領域 上級主席研究員の江守正多教授にインタビューを実施しましたので、その様子をご紹介いたします。
※インタビュー実施日:2022年9月14日オンラインにて実施。
【第6回】江守教授と気候変動とカーボンニュートラルについて考える
(東京大学 未来ビジョン研究センター 教授、国立環境研究所 地球システム領域 上級主席研究員・江守正多教授×パートナー弁護士・清水亘)
目次
Q1:気候変動科学を選んだきっかけ
清水お忙しいところ、ありがとうございます。以前にご講演を拝聴して、ぜひ詳しくお話を伺いたいと思っておりました。本日は、よろしくお願い申し上げます。まず、お仕事の概要をご紹介いただけないでしょうか?
江守氏こちらこそ、よろしくお願いいたします。僕は、茨城県つくば市にある国立環境研究所で、25年くらい地球温暖化の研究をしています。今年(2022年)4月からは、東京大学未来ビジョン研究センターを兼任しています。
研究を始めた当初は、気候変動の将来予測等をコンピュータでシミュレーションする気候モデリングの研究をしていました。昨年(2021年)、ノーベル物理学賞を受賞なさった真鍋淑郎先生が50年くらい前に開拓なさった研究分野です。
その後、次第に、気候変動科学の解説をすることが増えてきて、温暖化は嘘だという方々と論争したり、本来の専門ではありませんが、政策的な議論に参加したりする機会が多くなりました。気候変動に関する政策的な議論を聞いていますと、単純化していえば、環境派vs経済派の二項対立になりやすく、気候変動への対応には、科学的な問題だけではなく、社会的な価値観や立場が関係するといえます。そのような中で、自分は、科学者として、どのような立ち位置で、どのような発言をすれば良いのだろう、ということをずっと考えながら今にいたっています。
清水気候変動科学にご興味をお持ちになったきっかけは何だったのでしょうか?
江守氏大学の卒論のテーマを何にしようか考えていろいろ調べていたときに、気候変動問題に出会いました。ちょうど1992年に気候変動枠組み条約が採択されたころのことです。
その前に遡りますと、僕が高校2年生の時にチェルノブイリ(チョルノービリ)原子力発電所の事故がありました。事故そのものにはあまりピンとこなかったのですが、その後に、日本でも、「原子力発電所は、安全か、危険か?」という論争をテレビで放送するようになって、興味を持ちました。原子力発電所の問題は、温暖化対策の議論と似ていて、安全か危険かの二項対立になりがちですが、どちらの立場にも一理あるように聞こえます。立場が違うと、目標が違うからです。当時の自分にはどちらが正しいのか分からなかったのですが、そういった科学的なことが関係する社会の大きな問題にかかわり、自分の意見を言えるようになりたい、と高校生から大学生のころに漠然と考えました。
清水素晴らしいです。当時、気候変動はそれほど大きな話題になることはなく、最先端の学問領域だったのではないでしょうか?
江守氏1990年にIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の最初の報告書が出されました。その報告書を日本の省庁が解説した本を手に取ったのがきっかけです。大学の講義でもIPCCの報告書について言及があり、いわゆる冷戦が終わって、入れ替わるようにして、気候変動が国際政治のアジェンダになっていく、ちょうどそのようなタイミングでした。
Q2:気候変動とは?
清水本題に入りますが、そもそも、気候変動とは、どのような問題なのでしょうか?
江守氏気候変動と地球温暖化は、本来、意味が少し違うのですが、社会問題として捉えると、大体同じだと思っています。気候変動問題の意味するところは、人間の活動によって温室効果ガスが大気中にたくさん放出され、それによって地球の平均気温が長期的に上昇し、気温が上がるだけではなくて、雨の降り方が変わったり、海面が上昇したり、氷が減ったりして、人間社会や生態系に影響を与えるということまで含まれる、と考えています。
清水先ほど、気候変動は嘘だという論者もいるというお話がありましたが、実際、気候変動は、起きているのでしょうか?
江守氏はい、世界の平均気温のデータを見る限り、最近50年くらいは確実に上昇傾向にあります。これは、過去2000年、おそらくもっと長く、過去何万年の間で、特異な上昇であり、自然現象では説明がつかないことが明らかです。
ただ、例えば、台風は、増えている気がする人がいるかもしれませんが、データを見ると増えていません。また、強い台風が増えている気がしているかもしれませんが、データを見ると増えていません。データの見方によっては、気候変動問題は見えにくいのです。それでも、気温の長期的な上昇が人間活動によって起きていることは、疑う余地がありません。
清水氷期と間氷期が繰り返されることは、もともと地球の気候変動の中ではあったと思いますが、それとは明らかに違うのでしょうか?
江守氏明らかに違います。氷期と間氷期の変化は、地球の公転軌道や地軸の傾きなどが天文学的に変動することによって、地球に入ってくる日射量が変化し、それが引き金となって、氷が増えたり減ったりすることが原因で起きます。いまは間氷期なので、次に氷期が来るとしたら、氷が拡大していかないといけないはずですが、いま、氷はどんどん減っています。天文学的な計算によりますと、次の氷期が来るとしても5万年後といわれており、我々は長い間氷期の中にいます。それでも、いま、世界の平均気温は、産業革命前に比べて、1.1℃上がっています。
清水既に上がっているのですね。
江守氏はい。1.1℃は大きな変化ではない、と感じるかもしれませんが、そうではありません。氷期と間氷期とでは、世界の平均気温は6℃くらいの差があると考えられています。氷期には、南極大陸やグリーンランドだけではなく、北欧やカナダに氷がどっさり乗っていて、海面が現在より100メートルくらい低かったりします。つまり、氷期は、いまと全く違う気候なのですが、氷期と産業革命前の間氷期とでは、世界の平均気温は6℃しか差がありません。そして、その6℃の6分の1に相当する気温を、産業革命以降、人間は既に上げてしまっています。パリ協定は、「2℃よりも十分に低く」といっていますが、これは、「氷期と間氷期との差の3分の1よりは低くしておこうよ」といっているようなものです。いま現在は、平均気温の上昇を1.5℃で抑えるように努力しようといっていますが、これは氷期と間氷期の差の4分の1です。
大陸が移動したり、いろいろな生物が繁栄したり滅びたりするという地球の長い時間のスケールで見ますと、確かに、気候は大きく変動してきました。ただ、人間が文明を作ってから、たかだか数万年、現代文明に限っていえば数千年ですので、現在の間氷期の安定した気候の中で、農耕が始まり、現代文明が始まってから、世界の平均気温が一番高いことは間違いないといえるのです。
Q3:気候変動の原因と影響
清水気候変動の原因は、やはり、CO2なのでしょうか?
江守氏温室効果ガスには、CO2のほかにメタンなども含まれますが、気候変動の7割くらいの要因はCO2で、今後一番課題になるのもCO2です。ほかにもいろいろと減らさなければならないものはありますが、CO2の削減が最大の課題といえます。
清水なぜ、温室効果ガス、特にCO2が気候変動の原因であると分かるのでしょうか?産業革命後の世界の平均気温の上昇と、CO2の濃度の上昇とが比例しているからでしょうか?
江守氏いえ、もっと科学的に分かっています。CO2分子がどの波長の赤外線を吸収して放出するかが科学的に分かるようになったことで、CO2がどのくらい存在すると、地表から出てきた赤外線がどのくらい吸収されて、また放出され、それがまた吸収されて熱が伝播していく、ということを計算できるようになりました。これによって、CO2が増えると、どのくらいの赤外線が地表に戻ってきて気温が上がるのか、を原理的に計算できます。これを最初に精密に計算したのが、ノーベル物理学賞を受賞した真鍋先生です。
清水CO2は温室効果ガスだから、CO2が増えると気温が上がる、という単純なものではなく、もっとずっと科学的に計算できるのですね。
江守氏そのとおりです。
清水先ほど、平均気温の上昇を2℃で抑えるか、1.5℃で抑えるか、というお話がありましたが、2℃と1.5℃との違いは何でしょうか?
江守氏2015年にパリ協定で「2℃よりも十分低く、できれば1.5℃を目指す」という合意がなされた段階では、まさに、1.5℃と2℃との違いが国際社会に理解されていませんでした。理解されていなかったけれども、そのように書いてしまったので、詳しく教えてくれとIPCCに気候変動枠組条約から要請がありました。
そこで、IPCCは、2018年に、いわゆる「1.5℃特別報告書」を出して、その中で、1.5℃と2℃との人間社会や生態系への影響の違いや、1.5℃の場合と2℃の場合との必要な対策の規模の違いなどを明らかにしました。この特別報告書の中では、1.5℃と2℃との影響の違いとして、例えば、①平均気温の上昇が2℃になると、1.5℃に比べて、世界の中で貧困でかつ温暖化の深刻な影響を受ける人が数億人増える、②1.5℃では暖水域のサンゴ礁の7~9割が失われるのに対して、2℃になると99%以上失われる、というように、2℃上昇すると影響が極めて大きいということが説明されています。また、③2100年時点で、平均気温の上昇を1.5℃で抑える場合には、2℃の場合に比べて、海面上昇を10㎝低く抑えることができるといわれています。10㎝は大きな違いではないようにも思えますが、この10㎝の差で、海面上昇によって被害を受ける人の数は、全世界で、数百万人から数千万人規模で異なるとされています。この特別報告書を見て、全世界が、平均気温の上昇は1.5℃で抑えるべきだと考えるに至りました。
清水なるほど、気温上昇を抑制するならば、少しでも上昇幅が小さい方が良い訳ですね。
江守氏この議論でもう一つ重要なのは、ティッピングポイント(Tipping Point)です。気候変動の影響の多くは、気温が上がれば影響も大きくなるというものですが、ある水準を超えたところで急に影響が生じるような閾値のある現象が存在するのではないか、という指摘がなされています。例えば、ある気温を超えると、①南極の氷床は、不安定化してどんどん減り始め、最悪の場合は崩壊を始める、②アマゾンの熱帯雨林がどんどん枯れ始めて止まらなくなる、などというように、ある気温を超えると始まるだろうと科学的に予想されている事象があります。それが何℃で始まるかははっきり分からないのですが、1.5℃、2℃と徐々に超えていくことによって、その水準を超えてしまう可能性が高まること自体は確かといえます。気温上昇を抑えるならば、なるべく低い方が良い、というのは、このようなティッピングポイントの考察にも由来しているといえます。最近出された論文によれば、1.5℃の気温上昇ですら、いくつかのティッピングポイントを超える可能性がそれなりに高いと指摘されています。
清水つまり、当然に影響が出てくるものがあるということですね?
江守氏はい、ある気温を超えると、影響が加速するというか、止まらなくなるということです。その気温を超えてしまうと、その先で気温上昇が止まったとしても、ある現象自体は止まらずに進んでいってしまう、というイメージです。
Q4:脱炭素に向けた取組① CO2を出さないエネルギー
清水そのような状況下で、世界ではどのような取組がなされているのでしょうか?
江守氏気候変動を止めるためには温室効果ガスの排出を減らさなければならないのですが、1.5℃を目指すとすると、今世紀の半ばにはCO2の排出量を世界で実質0にする必要があります。実質0というのは、CO2の排出量をどんどん減らしていって、どうしても0にできなかった分を森林で吸収する、地中に貯留するなどの方法でバランスさせる、つまり、人間活動によってCO2が出ないという世界を実現しなければなりません。CO2以外のメタン等の排出も大幅に減らす必要があります。それでやっと1.5℃です。
CO2の排出に最も大きく影響するのは、化石燃料です。現代社会は、エネルギーの8割くらいを化石燃料に頼って成り立っています。つまり、現代社会はCO2を出しながら作っているエネルギーで回っているのですが、1.5℃を実現しようとすると、あと30年で、すべてのエネルギー源を、CO2を出さないエネルギーに変えていかなければなりません。
清水CO2を出さないエネルギーというのは、例えば、再生可能エネルギー(再エネ)や水素でしょうか?
江守氏はい、再エネは、気象条件や時間帯によっては、既に余るくらい電気を作り出している地域があります。
また、水素については、電気と同様に「何で作るか」が問題ですが、エネルギーシステム全体の中で将来的に重要な役割を果たしていくと思い始めている人が多いと思います。これは、電化が難しい部分を水素に頼る可能性があるからです。そもそも、エネルギーシステムには、電力の部分と燃料等の非電力の部分とがあります。脱炭素を実現する1つの方向性としては、非電力の部分を電化していって、CO2を出さないやり方、例えば、再エネや原子力で電力を供給する方法が考えられます。ただ、それでも、トラックや飛行機や船などによる長距離輸送については、電化が難しく、燃料の使用は残らざるを得ない。そして、燃料としてエネルギーを供給しなければならないとしても、脱炭素の観点からは、CO2を出さない燃料が必要であり、その場合の有力な候補が水素やそこから派生するアンモニアや合成燃料なのです。水を電気分解すれば、電気をそのまま使う場合より効率が落ちるものの、水素を作ることができます。そこで、ゼロエミッションの電気で水を電気分解して水素を作り、できた水素を燃料として使うことはあり得るのではないかと思っています。
清水水素を再エネの補完に使うことも考えられるでしょうか?
江守氏はい、考えられます。気象条件などによって発電量が変動する再エネへの依存度が高くなると、需要と供給をバランスさせるために調整メカニズムが必要となります。いまは、火力発電の量を上げ下げして調整していますが、脱炭素を実現するためには、従来型の火力発電を調整に使う訳にはいきません。もちろん、ゼロエミッション火力で調整するというやり方もありますが、例えば、再エネ電力が余っているときに再エネ電力を使って水素を作り、再エネ電力が足りないときに水素を使う、という選択肢も考えられると思っています。いずれにせよ、水素は、今後、様々な形で重要な役割を果たしていく可能性があり、最近の水素議論は地に足がついてきていると思います。
水素は、日本が技術的に先行している分野であり、脱炭素の文脈で、CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage:CO2の回収・利用・貯留)技術とともに、日本が世界をリードし、世界に貢献できる分野であるといえるでしょう。
清水やはり水素が重要ということですね。
江守氏いえ、脱炭素に貢献するボリュームからいえば、再エネが大量に入ることが重要なのです。ただ、日本では再エネの設備を製造する企業がほとんどないせいか、再エネ技術の議論があまり盛り上がりません。脱炭素テクノロジーといえば水素やCCUSというイメージは偏っていて、再エネ大量導入の議論にもっと注目が集まるべきではないかと思います。また、水素やCCUSの技術開発で日本がリードしても、大量生産のフェイズに入ったら他国に負けてしまうということにならないかも心配です。太陽光パネルがまさにそういうパターンでしたので。
清水なるほど。テクノロジーという観点では、ウクライナ侵攻を受けて、脱炭素の機運が低下してしまったのではないかと懸念していたのですが、いかがでしょうか?
江守氏その点はあまり悲観していません。例えば、欧州委員会が、ウクライナ侵攻を踏まえて、ロシア産化石燃料からの早期脱却を目指すREPower EUを発表する など、安全保障の観点を維持しながら、エネルギーの脱炭素を実現しようとする試みがなされているからです。むしろ、脱炭素が進むかもしれません。
清水多くの国や地域が2050年までのカーボンニュートラルを宣言していますので、脱炭素イノベーションは必須ですね。
Q5:脱炭素に向けた取組② 排出量取引
清水ところで、カーボン・オフセットのような取引の推進によっても、CO2の排出量削減に貢献できるのでしょうか?
江守氏京都議定書のころの排出権取引は、本当に意味があるのか疑わしいようにも思える制度だったと思います。当時の排出権取引は、例えば、日本は、CO2排出量を6%削減する国際的な義務を負っていて、この義務を達成できない場合には、お金を払って排出枠を買うというものでした。
でも、いまは違います。パリ協定は、他国にお金を払ってでも目標を達成しなければならないという義務的な目標を設定するものではありません。パリ協定は、自主的に目標を設定し、それを実現するための対策をとることを義務付けるものではありますが、実は、目標を達成する義務はありません。そういう枠組みの中で、我慢して嫌々ながらCO2排出量の削減に取り組むのではなく、みんなで協力し、お互いに目標を高め合って、みんなでCO2排出量を削減する方向に勢いをつけて向かおうというものなのです。
清水なるほど、勉強になります。
江守氏個人的には、炭素に価格をつけるカーボン・プライシングという方法が気候変動に対応するための本質的で効果的な政策であると思っています。炭素に価格をつける方法としては、排出量取引や炭素税がありますが、単に取引するだけの排出量取引にはあまり意味がありません。排出権取引を脱炭素に結び付けるためには、キャップ(上限)をかけて取引をすることがポイントです。取引をすることで経済的に最も効率よくキャップが守られることになるからです。
清水炭素税については、いかがですか?
江守氏はい、なんらかの形で炭素税の税収を国民に返すことも考えられます。税制的な中立性を確保しつつ、例えば、最も単純には税収を均等割りで返してしまえば、CO2の排出量が多ければ増税になるけども、CO2の排出量が少なければ減税になる仕組みを作ることができます。一般的に税金は嫌がられますが、税収の使い方を工夫することによって、CO2をなるべく出さないような産業が発展することを後押しし、CO2を出さない製品やサービスが相対的に価格競争力を持ち、投資が集まる、という循環を生み出すことができるのだと思います。
清水カーボン・プライシングを産業構造の変化につなげることがポイントなのですね。
江守氏脱炭素は業種によってハードルの高さが違います。例えば、製造業では脱炭素のハードルは高いのですが、ITや金融業では脱炭素のハードルが低く、「脱炭素はどんどんやれば良い。」「ビジネスチャンスだ。」ということになります。このような温度差がある中で、製造業、エネルギー産業、素材産業など、脱炭素のハードルの高い産業であっても、脱炭素に前向きに取り組めるような方向に変わっていかなければ、地球規模での課題は解決に向かいません。脱炭素に抵抗感がある産業であっても、脱炭素に取り組もうと心から思う変化を起こせるかどうかがポイントだと思っています。
Q6:我々にできること
清水卑近な話題で恐縮ですが、気候変動について、我々にできることは何でしょうか?
江守氏はい、ひとりひとりの市民に何ができるかという文脈で、よく聞かれる質問です。そういうときにはいつも、社会システムに興味を持って、システムに対して声を上げることが大切です、と答えるようにしています。
もちろん、小まめに節電したり、冷房設定温度を控えめにしたり、エコバッグを持ったり、自転車で移動したりということも大切なのですけども、そうしたことをみんながやっても効果は限られていますし、しかも、気候変動問題に対応すべき時間は限られています。そこで、社会を、みんなが意識しなくてもCO2が出ないような社会に変える必要がある。一人一人の心がけに頼っていても、CO2排出量をゼロにまでは決して減らせないので、やはりシステムが変わらなければなりません。そのためには、みんながシステムに興味を持って、システムに対して声を上げることが必要なのです。
清水とても納得感があります。
江守氏システムに対して声を上げるという観点から、最近、とても良い事例がありました。2022年6月、温暖化対策に不可欠な新築建物の断熱基準を義務化する、改正建築物省エネ法(脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律)が国会で成立しました。この改正には一部に根強い抵抗があったようで、後回しにされてきた経緯があり、先般の国会でも審議に入らない可能性がありました。これに対して、市民が声を上げて署名活動を行い、市民が地元選出議員に意見を言ったり、地元選出議員に専門家の話を聞かせたりして、結局、法案はものすごいスピードで可決成立しました。市民が動かなくても法案は成立したかもしれませんが、参加した方々にとっては嬉しかったと思います。そういった成功体験が重要であって、次にそういうことがあれば意見を言うモチベーションになりますし、それを見た人たちがさらに参加してというように輪が広がっていく。こういうことが、ひとりひとりの市民にできることとして、とても重要なのではないか、と思っています。
清水意見を表明することも、気候変動問題の解決に向けた、重要な行動変容ですね。
Q7:今後の活動
清水最後に、今後の目標などがあれば、お聞かせください。
江守氏先日、神戸の石炭火力発電差し止め訴訟に原告団側証人として出廷させていただき、貴重な経験になりました。僕としては、そのような、どちらかといえば、草の根に寄り添うような立場でこの問題を引き続き考えていきたいと思っています。また、気候変動がメディアでどのように捉えられているのか、メディアの報道を聞いて人々が気候変動をどのように捉えているのか、というようなコミュニケーションの問題についても、東大で研究したいと思っています。
それから、もう一つ、脱炭素テクノロジーとしての水素や再エネの大量導入というような議論において、コストやポテンシャルなどの技術的、経済的な話ばかりでなく、公平性や分配といった倫理的な側面や今まで明示的には議論に上がってこなかった価値があるのではないか、ということが気になっています。そのあたりになんとかアプローチできないかと思って研究を進めています。
清水世界にいろいろな状況に置かれた人たちがいて、脆弱な立場の人たちほど気候変動の影響が大きいと言われていますから、気候変動問題についても、倫理的な側面にも注目する必要がありますね。本日はありがとうございました。